歯科技工士は、海外で活躍するチャンスの多い職業です。
歯は、国や人種を問わず誰もが持っており、人種による特徴はあるものの本数や基本的な形態はほぼ同じです。ですから日本で歯や歯科技工について学べば、どの国の人の歯でも作ることができ、それが歯科技工士の世界中での活躍を可能にしています。
しかしながら、その国ごとに歯科技工士の資格や教育制度は異なります。
それでは世界の歯科技工士にまつわるあれこれを見ていきましょう。
記事の概要
各国の歯科技工士の現状
世界の歯科医療において歯科技工士はどのような位置づけで、どう進歩を遂げてきたのでしょうか。それぞれに違いや特色がありますので、いくつか紹介しましょう。
アメリカの歯科技工士
日本で歯科技工士になるには国家試験に合格し歯科技工士免許を取得する必要がありますが、アメリカには歯科技工士の免許制度が無く国家試験もありません。ほとんどの歯科技工士はOJTを通じて仕事を覚えていくようです。筆記試験・実技試験を受けて取得するCDT(米国認定歯科技工士)という資格もありますが、この資格が無ければ仕事ができないというわけではありません。いわばお墨付きを与えられ各方面からの信用を勝ち取れることになり、仕事をする上で有利に働くと言えます。しかし実力主義のアメリカにおいては肩書きよりも仕事ぶりが評価され、腕の良い歯科技工士に仕事が集まるようです。
日本で歯科技工所を開設するには、都道府県知事への届出が必要ですが、アメリカでの手続きは州・地域により違いはあるものの簡素なところが多いです。
前述のCDT(米国認定歯科技工士)という資格を持っていれば歯科医師からの信頼につながり、歯科技工所の経営には有利になります。
気になる収入ですが、アメリカでは、技術の差=収入の差につながります。先進国のなかで唯一国民皆保険ではないアメリカでは富裕層は技工料金が高くても良いものを求め、それに応えるレベルを持ち高収入を得ている歯科技工士もいる一方、数を作って質にあまりこだわらない歯科技工士も存在し、その分技術も収入も落ちます。
免許制度の無いアメリカにあって日本の歯科技工士免許を持っているということはステイタスであり、日本人歯科技工士は比較的恵まれた収入を得ている人が多いです。
ドイツの歯科技工士
ドイツで歯科技工士になるためには、まず見習いとして歯科技工所に勤めながら職業学校で、3年間理論を学び、学校修了時の試験に合格すれば“職人”として仕事ができるようになります。しかし歯科技工所を開業するためにはさらに“マイスター”を取得する必要があり、職人としての実務経験を3年以上積んだ後、マイスター学校に入学して1年間学びます。
日本人がドイツで働く場合も、勤務するだけなら日本の歯科技工士免許で働くことは可能ですが、歯科技工所を開業するにはやはりマイスターの取得が必須となります。またマイスターになると弟子を養成することが認められます。
ドイツ国民は歯への意識が高く、また職人気質の強さが歯科技工士にもあり、プライドを持って仕事に励む姿があるのです。
ニュージーランドの歯科技工士
歯科技工士としてニュージーランドで働くには、事前に所定の手続きを経て、Dental Council of New Zealandと呼ばれる認可団体が発行する免許を取得しなければなりません。このDental Council of New Zealandは歯科医師、歯科衛生士など、歯科関係全てを統一する組織です。免許を更新するためには講習会や研修会に規定の時間数以上に参加しなければなりませんが、講習は有料なので、時間的な負担のほか経済的負担も大きくなります。
ニュージーランドの歯科医師は出来上がった技工物を細かく調整することを嫌い、うまく入らないと再製作を要求する歯科医師も多いです。そのため1本1本の作業には時間と根気を要するものになります。
またニュージーランドには、義歯(入れ歯)専門に仕事をする「クリニカルテクニシャン」と呼ばれる、歯科医師と歯科技工士の中間のような資格もあります。
歯を削ったりすることはできませんが、義歯の専門家として直接患者を診察して義歯を制作し、報酬も直接患者から受け取ることができます。
中国の歯科技工士
中国には歯科技工士養成コースがあり3年制教育を行っています。そして学歴や経験年数等により国家試験の受験資格が与えられ、試験に合格すれば国家職業資格証書が授与されます。ただし歯科技工を行うのに資格が必須というわけではないため、養成コースに通い正規の歯科技工士教育を受けた者はごく一部で、歯科技工所内の有資格者が1割に満たない場合もあります。専門教育を受けていない者に対しては歯科技工所内でOJT教育が行われますが、教えているほうも専門教育を受けていないことが多く、誤った知識が会社内で引き継がれていくことも多いのが現状です。
現在の中国は世界最大の歯科技工物生産量を誇る巨大市場で、大手歯科技工所の中には1,000人以上の従業員を有するような大規模企業も複数あり、CAD/CAMなど最新機器の導入にも積極的です。
そして中国国内のみならず、ヨーロッパやアメリカをはじめ海外からの仕事の受注にも力を入れています。
歯科技工士の名称
「歯科技工士」という名称も世界各国で呼び方が違います。
アメリカでは「Certificated Dental Technician(CDT)」ですが、イギリスでは「Registered Dental Technician(RDT)」です。ちなみに日本歯科技工士会では、「DENTAL TECHNOLOGIST」という英語名称を標榜しています。
類似資格:臨床歯科技工士(Denturists)
臨床歯科技工士は患者と対面し、コミュニケーションを図りながら入れ歯を作る歯科技工士です。施術範囲はその国によって違います。歯科医師から独立して働き、ほとんどの国において患者から直に報酬を受け取るシステムになっています。
【臨床歯科技工士が活躍する主な国】
デンマーク、オランダ、フィンランド、インドネシア、オーストラリアなどです。
日本の歯科技工士は厚生労働大臣が免許を与える国家資格であり、日本の歯科技工士教育制度は世界でもトップレベルで高く評価されています。
腕のいい日本の歯科技工士は世界中から必要とされており、アメリカ、カナダやヨーロッパ、アジアなど各国で日本の歯科技工士が働いています。また発展途上国では、日本人の指導者・教育者に来て欲しいというニーズもあります。
最近では、逆に「メイド・イン・ジャパン」の歯を求めて、わざわざ海外から日本まで治療にやってくる富裕層の外国人もいます。
野球やサッカー選手のような目立つ存在ではありませんが、海外に活躍の場を移し、現地の歯科医療に貢献している日本人がいることに、ぜひ目を向けてみてください。